転勤でさいたま市に越してきて15年ほど経ちました。
先日、会社の上司と話していたところ、意外なことを聞きました。
それは、トランクルームを「親の遺品置き場」として使っているということ。
親御さんが生前に愛用していた家具を、捨てずにトランクルームに保管しているというのです。
トランクルームを「季節用品の一時置き場」、「家族に見られたくない物を置く場所」などと勝手にイメージしていた私には、上司の考え方はかなり新鮮でした。
ただネットで調べたところ、「親の遺品整理にトランクルーム便利」といった体験談や意見が数多く見られるので、実際には決して珍しいことではないようです。
というより、すでにかなり普及しつつあるのが現状なのかもしれません。
いったい遺品整理とトランクルームの間にはどのような関係があるのか?
各種データや上司の話を元に、調べてみました。
1 トランクルーム市場の現状と今後の展望
『リフォーム産業新聞』(2017/10/17発行)によると、トランクルーム市場は年々拡大しており、2010年時点における市場規模は約300億円でしたが、2016年時点では約510億円にまで成長。
6年ほどのうちに、200億円以上も伸びているのです。
特に伸び率が大きいのは「屋外型トランクルーム」の市場で、2010年時点では126億円規模だったものが、2016年では247億円と約6年で2倍以上も大きくなっています。
トランクルーム市場は今後も拡大し続けると見られ、2020年には市場規模は700億円を超えると見込まれています。
「季節用品を一時的に入れておく……」というだけでは、これだけの成長が続くことの説明はつかないのではないでしょうか。
トランクルーム市場拡大の背景要因として何があるのかを考えた時、会社の上司のような使い方、「親の遺品を入れる場所」としての利用法もその一因として考えられるかもしれません。
※参考
『リフォーム産業新聞』(2017/10/17発行)』トランクルーム市場の推移
http://www.reform-online.jp/news/reform-shop/12203.php
2 トランクルーム市場の拡大要因としての高齢化
『平成29年版高齢社会白書』によると、2016年10月1日時点における日本の高齢化率は27.3%。日本人の人口の約4人に1人が高齢者という計算になります。
現在、日本の高齢化率は、2010年では23.0%、2015年で26.6%と年々増え続けており、今後少なくとも2065年頃までは増加し続けると見られています。
ちなみに2065年の高齢化率は38.4%。約2.6人に1人が高齢者になる見込みです。
これだけ高齢化が進んでくると、毎年老衰で亡くなる人の数も増えてきます。
『平成29年版人口動態統計』によると、日本人の死亡者数は、戦後しばらくは減少が続いていたものの、社会の高齢化が徐々に進みだした高度成長期以降はずっと増加。
2010年には約120万人、2015年には約129万人、そして2017年の死亡者数の推計は134万4,000人となっています。
もし、私の会社の上司のように「遺品整理」を目的としてトランクルームを使っている人が大勢いるなら、これだけ高齢化が進み、毎年亡くなる人が増え続けている以上、トランクルーム市場が拡大し続けるのはもっともなことです。
具体的に「トランクルームを遺品整理として使っている人は全国に何人いるのか?」について大々的に調査したデータはありません。
しかし、多くのトランクルーム運営会社が「遺品整理」を目的とした利用を提案し、さらにネット上でも「遺品整理にトランクルームは便利」との意見が多くみられることを考えると、やはり社会の「高齢化」がトランクルーム市場の成長に与えている影響は少なくないと言えるでしょう。
※参考サイト
平成29年版高齢社会白書
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
平成29年人口動態統計
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei17/dl/2017suikei.pdf
遺品管理目的でのトランクルーム利用を紹介する運営会社の例
http://www.tohounyu.co.jp/service/trunkroom.html
3 なぜトランクルームに遺品を保管するのか~心のケア~
私の上司の母親は70代前半で亡くなってしまったのですが、死因は脳梗塞だったそうです。
倒れてから亡くなるまでの時間が非常に短く、上司の家族・親族は驚きとショックで葬儀のときもみなで泣き崩れていたとのこと。
上司は両親と同居していたそうで、会社にいる間に自宅で倒れ、発見が遅れたことが命取りになったようです。
もし病気で長年寝たきりになっていたりすれば、心の準備期間がある程度できるので、親を亡くした悲しみが軽減される部分もあるでしょう。
しかし、脳梗塞で突然……となると、そんな猶予期間はないわけです。
ただ母親は亡くなったわけですから、それまで使っていた部屋は整理する必要も出てきます。
とは言っても、ついこの間まで本人が使っていたものを、急に捨てるというのは心情的にも難しいこと。
しかも、上司の母親が使っていた家具は、父親と結婚したときに持参した嫁入り道具だったそうです。
子としても、おいそれと捨てられないものだったでしょう。
そんな時に上司が利用したのがトランクルーム。
トランクルームに母親愛用の家具を保管したのです。
そうすることで家の中を整理できる上(上司の家も私と同じく狭小住宅)、さらに家具を捨てることもしなくてもよくなり、まさに一石二鳥だったようです。
家具だけでなく、母親が趣味で集めていたものや、長年愛用していた雑貨類などもまとめてトランクルームにしまっておいたとのこと。
上司は、「母親のことを思い出したいときに、トランクルームを訪れたい」といったことを言っています。
また、まだ小さい上司の子どもたちから、将来「お祖母ちゃんはどんな人だったの?」と聞かれたときに、そのトランクルームに連れて行く、ということも考えているようです。
こうなると、トランクルームはただ「荷物を預ける場所」というわけではなく、肉親などを亡くした人の「心のケア」をしてくれる機能をも持つ、と言えるのかもしれません。
ただ遺品を預ける場合、トランクルームの選び方に注意が必要です。
通常のトランクルームだと湿気が溜まり、カビなどが生えて遺品を傷める恐れがあるからです。
最近では空調設備付きのトランクルームがあるので、貴重な家具類などを預ける場合は、そうしたものを選ぶと良いでしょう。
まとめ
トランクルーム市場の規模は、現在右肩上がりで大きくなっています。
その要因は色々と考えられるでしょうが、トランクルームが「遺品の預かり場所」として機能しているということも大きく影響しているのかもしれません。
高齢化が進展し、死亡者数が年々増えている日本社会において、亡くなった人の思い出の品を預けてもらえるトランクルームは、心のケアを行ってくれる存在として今後も増え続けていくのではないでしょうか。
私などは「最近トランクルーム増えたなあ」などと軽い気持ちで車の窓から眺めていますが、それぞれのトランクルームの中には、亡くなった人の思い出の品が大切に保管されているのかもしれません。